ぼくにはさっぱりわからな

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ぼくにはさっぱりわからな

ボー?マンドール男爵、マンドラレン卿は平均をやや上まわる身長の持ち主だった。髪は黒い巻毛で、目は深い青、そして確固たる意見を表現するにふさわしいよく通る声をしていた。ガリオンはどうもかれを好きになれなかった。かれの人並みはずれた自己中心癖はあまりにあからさまだったので、大人気ないとい免疫系統う印象さえ与えた。そしてかれの自惚れを見るにつけ、レルドリンがミンブレイトについて語った話のもっともひどい部分でさえうなずける気がするのだった。さらに、ポルおばさんに対するマンドラレンの大袈裟な丁重さには、単なる礼儀を超えたものがあった。しかも悪いことに、ポルおばさんはかれのこびへつらいを気持ちよく受け入れているように見えた。
 降りつづく霧雨の中、〈西の大街道〉沿いに馬を走らせているうちに、ガリオンは他の仲間も自分と同じ気持ちでいるらしいことを察して思わず顔がほころんだ。バラクの表情は言葉より雄弁にかれの気持ちを物語っていたし、シルク免疫系統は騎士が何か言うたびに小馬鹿にした態度で眉を吊りあげた。ダーニクも顔をしかめている。

 とはいえ、ガリオンにはこのミンブレイト人に対する感情を整理している暇はほとんどなかった。かれは担架にぴったり寄り添って馬を走らせていたが、その上に乗ったレルドリンはアルグロスの毒が傷にふれるたびに激しくのたうっていたのだ。かれは友だちを精一杯励ましながら、時おり、近くで馬を走らせているポルおばさんと心配そうに顔を見合わせた。レルドリンがとくに激しい発作に襲われているあいだ、ガリオンは免疫系統どうしたら傷みをやわらげてやれるのかわからずに、ただおろおろとかれの手を握っていた。
「毅然として痛みに立ち向かいたまえ、いい若い者が」とりわけ激しい痛みのあとで息をきらし、うめいているレルドリンに向かって、マンドラレンは意気揚々とアドバイスした。「この苦痛はただの幻想にすぎない。そう念じれば痛みも吹き飛ぶであろう」
「ミンブレイト人の言いそうな台詞だな」レルドリンは食いしばった歯のすきまからしぼり出すように言った。「こんな近くで馬を走らせないでほしいよ。あんたの言葉はそのよろいとおなじぐらい嫌な臭いがするよ」
 マンドラレンはわずかに顔を赤らめた。「傷ついた体でそんな悪態をつくとは、われらが同胞は怪我で良識ばかりか礼儀まで失ってしまったと見える」かれは冷やかに言った。
 レルドリンは応戦しようとして担架の上でなかば体を起こしたが、急な動きがさらに傷を悪化させたのだろう、そのまま気を失ってしまった。
「傷がかなり深いらしい」マンドラレンは言った。「あなたの湿布をもってしてもかれの命を救うことはかなわぬかもしれませんな、レディ?ポルガラ」
「かれには休養が必要なのよ。あんまりかれを興奮させないでくださいな」
「では、かれの目が届かないところに退散するといたそう」マンドラレンは答えた。「わたしに非はなくとも、この顔がかれに不快感を与え、かんしゃくを起こさせてしまうようだから」かれはそう言うと、他の仲間との距離がかなりひらくまで、軍馬を速足で走らせた。
「あのひとたちってみんなあんなふうに話すの?」ガリオンは悪意をこめて訊ねた。「貴公とかあなたとか、いたそうとか?」
「ミンブレイト人は礼儀作法にうるさいのよ」ポルおばさんは説明した。「あんたもそのうちに慣れるわ」
「ばかばかしいよ」ガリオンは騎士のうしろ姿をながめながら、怒ったようにつぶやいた。
「礼儀作法のよいお手本を見るのは、あなたのためにもなるはずよ、ガリオン」
 雨垂れの落ちる森の中を進んでいるうちに、木立の中には夜の気配が忍び寄ってきた。
「ポルおばさん?」ガリオンは思いあまって訊ねた。
「なあに、ガリオン?」
「あのグロリムがおばさんとトラクのことについて言ってたのは、どういうことなの?」
「トラクがうわごとを言ってるときにうっかり漏らしたことよ。それをグロリムたちが真に受けた、それだけのこと」彼女は青いマントをさらにきつく体に巻きつけた。
「嫌な気はしない?」
「べつに」
「あのグロリムが言ってた〈予言〉ってなんなの? かったけど」
〝予言?という言葉がどういうわけかかれの心の奥底にある何かを揺すぶったのだ。
「ムリン古写本のことよ」彼女は答えた。「ほとんど判読できないぐらいに古い版なの。その中に書かれているのよ――熊とネズミ、それに二度生まれるという男のことが。そのことについて言及しているのはこの版だけなの。これが本当に何かを意味しているのかどうかをはっきり知っている者はいないわ」
「おじいさんは意味があると思ってるんでしょ?」
「あんたのおじいさんは奇妙な見解をたくさん持っているのよ。かれは古いものに魅かれるみたいね――たぶん本人がものすごく年をとっているからでしょうけど」
 ガリオンはこの〈予言〉がもっと他の版にも書かれているような気がして、それについて訊ねようとしたが、ちょうどそのときレルドリンがうめき声をあげたので、ふたりはとっさにかれの方を見た。
 一行はその後間もなく、厚い白塗りの壁に赤い瓦屋根を載せたトルネドラ人の宿にたどり着いた。ポルおばさんはレルドリンを暖かい部屋に寝かせるように取り計らい、一晩中かれのベッドのわきにすわってかれの看病をした。ガリオンは友人の容体を確かめるために朝になるまでに六回ほど靴下をはいた足で暗い廊下を忍び歩いたが、なんの変化もないようだった。
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